1 事件の内容
ニュースによると
岡山県警は、7月21日、知人の成人女性に性的暴行を加えようとした不同意性交等未遂罪で同県警組織犯罪対策1課長の警視(57)を逮捕したそうだ。
逮捕された日の記事には、被害者の職業について記載がなかったが、翌日のある新聞記事には、「捜査関係者によると、被害に遭ったのは報道機関の関係者とみられる」と書かれていた。
逮捕容疑は、5月中旬、岡山市内で女性に性的暴行を加えようとした疑いであり、勤務時間外だったそうだ。
女性が6月上旬に被害届を出したことから、県警が関係者への聴取などの捜査を行い警視を被疑者として逮捕したのである。
警視は「全く事実と異なる」と容疑を否認しているそうだ。
2 被害者が知人の報道関係者とは?
① なぜ、警視が報道関係者と知人になるのか?
この事件を考察するポイントは、被害者が報道関係者だということである。
各マスコミには、警察担当の記者がいる。
警察が扱っている事件の詳細な内容は、ニュースの宝庫であるが、警察で公式に発表される事件の内容は、被害者が特定されないよう配慮された形式的なものでしかないから、各記者は、他社がまだ知らない事件の詳細を少しでも先に知って記事にしようと競争が繰り広げられる。
そして、この警察担当記者と会って話をすることができる警察官は、指定された警視クラスだけに制限されているから、もちろん、逮捕された組織犯罪対策第1課長は、公式に記者と話すことができる警視である。
では、この警察担当の記者は、いつ情報を仕入れようとするのか?
それは、夜である。
昼間の勤務時間内には、なかなか記者も警視に会うことができないから、勤務時間も終わり、警視も自宅に帰ったあと、それぞれの記者は、警視の自宅などを訪問し、公式の場で発表されなかった事件の詳細な内容を、他の記者よりも自分だけ得ようとするのである。
話す警視も、その内容によっては、現場捜査に支障を及ぼしたり、地方公務員法違反(情報漏洩)の疑いをかけられたりすることになるから、ここでの会話は、非常に注意しなければならない。
また、記者も他の記者には知られないように話を聴きたいから、必然的に1対1の会話になる。
お互い、情報の出所などの秘密を守るという信頼関係を醸成したうえで、警察情報のリークは存在する。
この結果が、新聞記事に時々出てくる
「捜査関係者によると。。。。」という、公式には発表されていない確実な捜査情報である。
② なぜ、報道関係者が被害を受けたのか?
前述のとおり、警察担当者の記者は、夜に、警視の自宅をひとりで訪問する。
本部の課長という署長クラスの警視の場合、官舎に単身赴任の人もいるだろう、警察担当記者には若い女性記者もいる。
そのような、情報を得るための特殊な状況のなか、警視が女性新聞記者に誤った好意を持ってしまったのではないかと推測する。
3 なぜ、不同意性交等未遂罪なのか?
数日前に書いたブログ(サッカー佐野海舟選手の不同意性交罪と伊東純也選手の強制性交罪について)に書いたとおり、昨年、刑法が改正され、被害者の意思に反した性交という犯罪行為の立証に、強制という要件が無くなったからである。
強制とは、被害者の抵抗を抑止するほどの強制力が存在しなければならないから、具体的には腕を押さえ付けるとか、殴るとかである。
被疑者の強制力を捜査で立証ためには、その前提となる被害者の抵抗行為も必要であった。
だから、刑法が改正されるまでは、被疑者と被害者との間に何らかの関係性があり、つまり、職場の上下関係だとか、仕事上の利害関係があるとか、金銭の貸し借りがあるとかの理由で、被害者が拒むことができにくい、対抗できないことに乗じて、性交するという卑劣な犯罪に対して処罰することが難しかったのである。
このような性犯罪を処罰し、被害を防止するために昨年刑法が改正されたのである。
今回の警視は、まさに、記事になる情報を得ようとする女性記者の弱みにつけ込んだ卑劣な犯罪だったのでないだろうか?
4 なぜ逮捕されたか?
密室で、被疑者と被害者の2人しかいない場合、その供述だけでは、性的な行為があったかどうかの認定は難しい。
まして本件は未遂ということであるから顕著な証跡は少ないだろうし、被害届の申告は、犯行後数日たっている。
捜査は逮捕が全てではないから、事実を認定する資料が足りなければ、任意捜査で書類送致という方法で検察官に事件送致することもできる。
今回、逮捕したということは、事実を認定する証拠が揃っているということだろう、逮捕状は警察が揃えた証拠資料を吟味して裁判官が発付するものだ。
想像になるが、記者が訪問して話を聞くのに、録音をしていないとは思えない。
もし、警視の調子に乗った行為が、録音や録画されていて、被害届と共に証拠提出されていたのなら、警視が任意の取り調べで否認した場合、証拠隠滅や逃走の恐れがあると判断され逮捕されたことも納得がいく。
付け加えるなら、本件は、犯罪の被害が生じなかった未遂罪であるが、既遂と同じ法定刑が適用されるから、不同意性交等未遂罪の刑罰は、5年以上の有期拘禁刑である。
5 おわりに
世の男性は、昨年、刑法が改正された趣旨を、もっと良く学ぶべきだ。
これまで、意に反した性行為を受け、相手を犯罪として処罰することができずに、悔しい思いをしてきた性被害を根絶すために、刑法が改正されたとうことを知らなくてはならない。
これまでと同じような考えで、自分の性的な欲求を満たそうとすると、直ぐに逮捕されるということを理解した方が良い。
それにしても、このような事件で幹部を逮捕し取り調べをしなければならない、岡山県警の多くの真面目な警察官の気持ちを想うと辛い。
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