1 盗撮をした人から相談がありました
私は、21歳の学生ですが、駅のエスカレーターで盗撮をしてしまいました。
私の後ろにいた男性から「何してるんだ!」と声を掛けられ、私は逃げる勇気もなく、観念して謝りました。
その男性が110番通報をしたので、直ぐに近くの交番から警察官が来て、私は警察署に連れていかれました。
取調室で、私は素直に盗撮を認め、撮影したスマホを差し出し、撮影したスカート内の下着が映っている動画を警察官と確認し、上申書という自分の罪を認める書類を書きました。
私は、このまま逮捕されるのだろうと思いましたが、自宅にいた母親が警察署に来て、身柄請けということで帰宅を許されました。
後日、連絡するから、その時に必ず出頭するように念を押されました。
私は、この後、逮捕されるのでしょうか?
という相談でした。
2 盗撮事件の適用罪名
盗撮事件の適用罪名は2つある。
1つは、各都道府県で定められている迷惑防止条例である。
この条例は、電車内、駅構内などの不特定の人が集まる公共の場所で、乱暴や卑猥な言動などの迷惑をかける行為を取り締まるものである。
盗撮事件の歴史は、平成初期のころ携帯電話にカメラが付く前までのころは、女性のスカート内を盗撮する行為は少なく、取り締まられていなかった。
しかし、携帯電話にカメラが付き、手軽に撮影が出来るようになると、いたずらのように盗撮事件が増え、これを防止するために迷惑防止条例の「人を羞恥させる行為」として盗撮行為が取り締まられることになった。
しかし、この条例が適用される場所は公共の場所だけであり、例えば個人の家、ホテルの一室、会社の事務所など、特定の人だけが出入りする場所では、盗撮を迷惑防止条例違反で取り締まることができなかったことから、令和5年、性的姿態撮影等処罰法が施行され、相手の同意なく裸や下着姿を撮影する行為が取り締まられることになった。
ちなみに、迷惑防止条例での盗撮の罰則は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金であったが、性的姿態撮影罪の罰則は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金である。
3 盗撮で逮捕される場合
① なぜ逮捕されるのか?
警察の犯罪捜査には、任意捜査と強制捜査がある。
任意捜査とは、逮捕されずに、警察に呼び出されて取り調べを受け、捜査が終わったら関係書類は検察庁に送致され、その後、検察官から呼び出しを受けて、また取り調べを受け、その後検察官が起訴・不起訴を裁定します。
強制捜査とは、逮捕されて警察署の留置場に留置され、48時間以内に身柄とともに検察庁に送致され、勾留になれば、そのまま警察署の留置場に留置されて取り調べが続き、10日~20日の勾留期間の終わりとともに検察官が起訴・不起訴を裁定します。
警察が犯人を逮捕するかしないかは、刑訴法によって、「逃亡のおそれがある」又は「証拠隠滅のおそれがある」ことが、逮捕要件であることが定められています。
この判断は客観的であり、いくら犯人が「逃げません」と言っても、犯人が無職で一人暮らしであったり、供述が矛盾していたり、共犯者がいたりする場合には、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されて逮捕される場合があります。
② 盗撮で現行犯逮捕される場合
そもそも逮捕行為は、人権侵害に関わることですから、通常は、警察が裁判所に証拠書類を提出して逮捕令状を請求し、裁判官が発付した逮捕令状によって逮捕されます。
しかし、今、目の前で犯罪行為があった場合、誰でもこの犯人は見て分かります。
この場合、犯人を見間違える誤認逮捕の危険が少ないですから、警察官に限らず一般人であっても、逮捕令状によらない現行犯逮捕をすることが出来るのです。
逮捕系ユーチューバーは、この逮捕手続きを利用しているのです。
盗撮で現行犯逮捕される場合は、逮捕者が、犯人が女性のスカート内にスマホを差し入れているような行為を目撃して、犯罪行為であることを判断したわけですから、この行為の適用罪名は、普通、迷惑防止条例違反になります。
迷惑防止条例で処罰される行為は、公共の場所で人を羞恥させる行為です。
被害者にとって公共の場所で、スカートの中にスマホを差し入れられることは恥ずかしいことですから、撮影されていなくても、その行為自体で迷惑防止条例違反が成立するからです。
③ 盗撮が公共の場所でなかったら
盗撮場所が公共の場所以外であったら、迷惑防止条例違反は適用されません。
じゃあ、性的姿態撮影罪で現行犯逮捕できるかというと、ここに問題が生じます。
性的姿態撮影罪は、撮影することを処罰するからです。
スカートの中にスマホを差し入れた行為の目撃だけでは、本当に撮影されたかどうか分からないからです。
その場で直ぐに撮影されたことが分かれば、現行犯逮捕も可能かもしれませんが、スマホにロックが掛かっており、犯人の承諾を得てロックが解除され撮影の事実が確認されたような場合には、これは事後捜査によって明らかになった証拠であって、現行犯人とは言えないのです。
この場合、警察は現行犯逮捕の手続きを取らずに、目撃者や被害者の供述、確認した画像を証拠として、裁判所に逮捕令状を請求し、犯人を警察署に待たしておいて逮捕状による通常逮捕をすることが普通です。
犯人が、警察署で待つことを拒んだ場合には、性的姿態撮影罪の刑罰は、3年以下の拘禁刑ですから、緊急逮捕することができる罪ですから、逃亡のおそれがあると判断され緊急逮捕し、その後に逮捕令状を裁判所に請求することが普通です。
4 相談の盗撮事件を解説
相談された方は、一般の方に声を掛けれら、もし、逃走しようとして取り押さえられていたら、迷惑防止条例違反の一般人による現行犯逮捕の手続きが取られていました。
その場合、駆け付けた警察官に犯人の身柄は引き継がれ、警察署に連行されて留置場に留置され、48時間以内に検察庁に身柄送致されます。
逃走しようとしたことから釈放されることなく勾留され、自宅や職場の捜索差押を受けるかもしれませんし、10日~20日の勾留期間満期に検察官が起訴・不起訴を裁定します。
初犯で深く反省していたら略式起訴罰金で済むかもしれませんが、犯行を否認したり、前科や余罪があったら起訴されることが普通です。
そして釈放されるでしょう。
相談された方は、直ぐに罪を認めて逃走しませんでした。
現場に来た警察官にも正直に話し、証拠品であるスマホも提出しました。
警察署への任意同行にも素直に応じ、スマホに記録された盗撮画像も確認しました。
これらの捜査から、性的姿態撮影罪の証拠は揃いましたが、警察は、犯人は逃亡や証拠隠滅のおそれが無いと判断し、任意捜査ですすめることを判断しました。
もし、この方が正直に話さなかったら、警察は、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるのではないかと判断し、逮捕状を請求して性的姿態撮影罪で逮捕したでしょう。
また、今後も呼び出しに応じないことがあれば、警察は、犯人が逃亡のおそれがあると判断し、直ぐに逮捕状を請求して逮捕することが普通です。
5 今後、逮捕されるか?
以上の説明のとおり、相談された方は、正直に罪を認めたことから、運よく任意捜査されることになりました。
このまま、警察の呼び出しに応じて正直に事実を話せば、逮捕されずに書類送致されることが普通です。
逮捕されると大変です。
実名が報道される可能性がありますから、職場にもバレてしまい辞職しなければならないかもしれません。
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犯罪を起こして警察に取り扱われた場合、警察捜査の内容は、逮捕や任意捜査など、いろいろな状況で判断されます。
だから、被害者も不安でしょうが、犯罪を起こしてしまった人も不安です
私の経験が、その方たちの不安を少しでも解消できたらと思っています。
匿名でご相談を受けますので、何か警察捜査で知りたいことがありましたら、どうぞ、ご相談ください。
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